« 唐十郎最終講義イベント終了(溜息……) | トップページ | 吉岡健二郎先生が逝去された。 »

2005.02.04

久々の京都と、井筒和幸監督「パッチギ」

 宝くじの文化助成をやっている「地域創造」が主催する研修会で、京都アートセンターへ。日本海側大積雪の後だったので関ヶ原から米原までは吹雪いていた。京都も前の日に雪が降ったらしい。
 全国各地の美術館や文化振興財団の美術系の人たち20人ほどを前に話をする。もちろんアートマネージメントなどという話ではなくて、美術館も国立大学ももうとっくに存在根拠を失っているのだから、いかに人の力を引き出して「廃物利用」をするかを考えるしかないというような話。終わった後いろいろな反響を聞いて楽しかった。二三日前に豊田のシンポジウムで椿昇の話を聞いた人も沢山居た。
 夜には、「最終講義」にもわざわざ駆けつけてくれた京都精華大学の島本浣さんと再会、記号学会の時に知り合った中谷さん、西坂さん、その一年前の講演会の時に強い印象をもったアーティストの上瀬奈緒子さんと、ぼくが好きな三人の女性をみんな集めてくれて、楽しく、そして時に口角泡を飛ばす激論を戦わせながら、百万遍で深夜まで過ごした。
 三条河原町のホテルに泊まり、帰りの新幹線に乗るまでの時間つぶしと思って新京極で映画「パッチギ」の10時からの回を観る。これが予想を遥かに超えて素晴らしかった。「ガキ帝国」や「岸和田少年愚連隊」でもそうだけど、シーンのつなぎが少し早すぎるのと印象的なショットを余りにも短く切ってしまうのが相変わらず気になるが、「娯楽性」を追求するタイプの監督だからそれはまあ仕方ないかもしれない。那須博之の「ビーバップ・ハイスクール」(1985)以来久々に楽しめた高校物であり、1968年の京都という個人史的にも重要な時代を描いた60年代物であり、何よりも「在日」に正面から向き合ってた真っ当な青春映画である。
何よりも若い役者たちが素晴らしい。19歳の沢尻エリカ(ちょっとこの芸名はどうなの?とは思うけど)、ガンジャ役の真木よう子、桃子役の柳原京子、高岡蒼佑とその仲間たち、空手部や愚連隊の連中、みんなパワーに満ちていて魅力的だ。ほとんど初めて見る役者たちだが引き込まれた。脇で出てくる、オダギリ・ジョー、光石研、大友康平、笹野高志もみんないい。これはこないだの「血と骨」なんかよりも数倍いい。
 それとオールロケーションで撮られた京都がいい。背景に新しくなった京都駅が映ってしまたり、京大の新しい建物が入ってしまうのが少し興ざめだが、40年近く前と全く変わっていない場所も多いので、宝ケ池、銀閣寺、賀茂大橋、祇園、京大西部講堂、新京極辺りの風景が楽しめた。まだ市電が走っていた頃なのだが、現代の京都をそのまま(看板などを少し付け加えただけで)使っていて六十年代の雰囲気をうまく醸し出している。現代の京都を扱った映画には鴨川が必ず出てくるし、たとえば大森一樹の「ヒポクラテスたち」でもそうだったが、この映画ではテーマ曲の「イムジン川」に重ねられて、北と南、朝鮮部落と日本人などを隔てる川として描かれている。主人公がとても鴨川とは思えないほど増水している川を渡ってヒロインのところに近づいていったり(通常鴨川はとても浅いので、よく酔っぱらった大学生が鴨川渡りをする。ぼくも一度やったことがある)、橋の欄干にギターをぶつけて壊したりするシーンがとても良かった。京都の町が重要な要素となっている都市の映画であることも確かである。この映画のロケ地をめぐっていくのも楽しいかもしれない。当然、昔の朝鮮人部落もその中に含めなくてはならないだろう。
 あの時代を知る者にとって、細部の描写もとても楽しい。冒頭の実在した失神バンド「オックス」が歌う「ダンシング・セヴンティーン」と「スワンの涙」、光石研演じる「毛沢東語録」を手に生徒に熱く語り、ロシア人ストリッパーと「革命的連帯」をしてしまう高校教師。ラジオ局KBS京都で上司を殴って放送を続ける大友康平、寺の息子主人公康介の母親余貴美子のいかにも京都人風の陰険な在日差別、祇園のキャバレー、みんなともリアルだ。こういう映画は締め方が肝腎。クライマックスがラジオ局での「イムジン川」で、外に自転車で駆けつけたキョンジャが待つラストは悪くないが、もう少しつないでほしかった。その後の二人のデートは蛇足だったのでは。それでもエンドロールの「あの素晴らしい愛をもう一度」で持ち直してはいたけれど。いずれにしても、これは井筒和幸の会心作と言うべきである。「夜を賭けて」や「血と骨」といい「在日」を扱った映画が作られるのは、そこにぼくたちが失った「日本人」の姿を見いだすことができる鏡になっているからかもしれない。ソウルの東大門市場を訪ねた時に、市場をそのまままるごと巨大なビル群に詰め込んでしまったような都市形成と、そこに集まる人々の猥雑なエネルギーに驚いたが、六本木ヒルズとかお台場やみなとみらいみたいな空疎な都市環境を作ってきた日本はきっと韓国に負けるなと思ったことを思い出した。

« 唐十郎最終講義イベント終了(溜息……) | トップページ | 吉岡健二郎先生が逝去された。 »

「Non Section」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/16230/2805412

この記事へのトラックバック一覧です: 久々の京都と、井筒和幸監督「パッチギ」:

« 唐十郎最終講義イベント終了(溜息……) | トップページ | 吉岡健二郎先生が逝去された。 »

最近のトラックバック

2017年8月
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31