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2005.03.09

唐ゼミについて(5)--近畿大学唐フェスティバル終了

 というわけで、5日に東大阪・近畿大学に入り、7日に帰ってきました。7日の夕方には、唐さんが近畿大学の客員教授に就任するという記者会見があり、各新聞やNHKのニュースなどで流れました。
 そう。そういう段取りだったわけだ。近畿大学に勤めている演出家の松本修さんや演劇評論家の西堂行人さんに働きかけ、一年以上前から進めてきた話がこういう形で実を結んだ。だから、「唐十郎フェスティバル」というのはその序曲として、ぼくにとってもとても重要な意味をもっていたわけです。
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 昼過ぎに到着すると、巨大なキャンパスの中に四会場がばらばらに配置されていて、案内板もほとんどない中で唐ゼミの青テントが寒風の中にぽつんと立っていた。近大の学生が「唐版・風の又三郎」をやったテント・カフェに行くと松本さんが一人でポツンとコーヒーを飲んでいる。初日の予約が30人で今日が15人で、初日はそれでも招待や唐ゼミ関係者が来て60人程度になったけれど、今日は20人行くかどうか分からないと聞いて、ここの実行委員の学生たちは何をしているんだと思ってチラシを撒いたり、電話で宣伝をさせようかと思っていたところ、当の実行委員長が3時半すぎにのんびりと出勤してきた。寒い戸外で受付に立っている学生たちや、客の居ないカフェで待機していたりする学生たちを見ていたので、ちょっと切れそうになった。スケジュールもでたらめで、アフタートークと次の公演時間がかぶさっていたりする。実行委員の学生たちは交流会に忙しいらしく、ほとんど会場に姿を見せない。ゲストを何時にどこに呼ぶというようなこともしておらず、南河内万歳一座の内藤裕敬さんにも芝居を見てからアフタートークしてくださいとしか伝えていなかったらしく開演5分前まで現れず焦る。というようなことが重なり、これまでのことを唐ゼミの連中から聞いて、こんなことでやっていけるのかと不安になった。
 その夜の宴会で直接、松本さんや西堂さんにこの不満を伝えたが、あまりピンと来ないようだった。「学生に全部任せているから」とか「学年によってちゃんとできる時もあるから」とか「大阪では演劇に客を集めるのが難しい」とか「学生たちがこんなに駄目だとは思わなかった」とか言い訳をされたが、そういうものではないだろうと思った。「最終講義」の時もそうだが、もしあれに100人しか観客が集まらなかったり、メディアに無視されたりしたら、ぼく自身が唐さんに申し訳が立たない。ぼく自身が実は相当追い込まれていたわけだ。唐ゼミの連中にしてもそうで、学年末の試験やレポートで忙しい時期に何日も徹夜して徹底的にリハーサルをしてくれた。劇団でためていた資金も持ち出しているし、二次会に残ってくれた数十人のお客さんたちにも手作りの料理でもてなした。唐ゼミの子たちはたとえ一年生で数ヶ月しかいない子たちまで含めて、真剣に寝る間を削って働いている。それが近大の学生にできないわけはないし、たとえできないとしても、努力さえしない学生に対して、少なくともぼくだったら絶対に許さないと言った。こんなやり方をしているようでは、とても安心して唐さんを送り出すことはできないと思ったからだ。
 そうやって怒ったことが少しは通じたのか、次の日になると実行委員の学生たちが道案内の紙を持って立っていたり、駅前でサンドイッチマンよろしく看板をつけて宣伝をしていたりした。やればできるじゃないかと思ったが、その日の会費制の「交流会」にしてもそうだし、唐ゼミがまだテントのバラしを夜中までやっている次の日の晩には身内だけの打ち上げをやったりしていて、要するに自分たちが楽しんでいるだけで、大学の外に向けてきちんとアピールしていこうという意識が薄い。これでは縮小版の大学祭にすぎないではないかと思った。
 唐ゼミの公演は初日、二日目と古くからの大人のファンが足を運んでくれた。とりわけぼくの居なかった初日には、椿昇、嶋本昭三、前回お世話になった劇団The KIOのメンバーらが来てくれたが、風が強く凍える程に寒かったらしい。二日目も60人ほどの客の中には、東京から来てくれた唐組の公認ファンサイト「唐ファン」の管理人、藤澤さんと岡山からわざわざ来てくれた友人、唐組の丸山厚人のご両親、ぼくの勤めていた帝塚山学院大学の卒業生二人、前回の大阪公演にも来ていただいた南河内万歳一座から内藤さんはじめ5名が、また最終日には東京からいつもきてもらっている唐ゼミファンの内田さん、岩波の編集者の樋口さん、読売文化部の山内さん、京都精華大学の島本浣さんとやはり帝塚山学院大学の卒業生5人、などの方々に来ていただけた。横浜国大の学生やOBも5,6名駆けつけた。新潟県の上越からは、社会人大学院生で中野の一年先輩だった金谷さんがお友達を連れて、金曜日から彼らの食事係をずっとやってくれている。ある意味でとてもぜいたくな話だが、それだけに大きなプレッシャーがかかってくる。唐ゼミの公演にはこのところいつも関西や長野や新潟や水戸から大人の観客たちがわざわざ泊まりがけで見に来てくれるようになっている。この人たちに「来て良かった」と言ってもらえるために、また新しい観客との出会いを期待して、全員が自分のもっている以上の力を引き出そうと、無理をして頑張ってくれるのである。
 実はぼくは二日目までの公演にいくつか重大な不満があった。その前の週にも二日間、延べ10時間以上に渡って中野と議論した(ぼくは彼らの劇団としての自立性を信じているので、中野や作業監督、舞台監督を通してしか現場に口出しはしないようにしている)のだが、やはり納得ができないところがあって、その日の晩と次の日の朝にも中野と議論をした。それから、中野は短時間の間に信じられない集中力を発揮して、いくつかのシーンを根底から作り替え、新しい装置を作ったり、舞台床に穴を掘ってエンディングを変えたりして、最終日はそれまでと全く違うものを作り出してくれたのである。毎回のことであるが、そうした時の彼らの頑張りと一丸となった時の集中力にはいつも目を見張る。その結果、千秋楽の舞台はぼくにとって特別なものとなった。感動で涙が止まらなくなった。これはさすがに100人程度にはなった観客にも通じたらしく、二日目とは反応が違っていたし、終わった後何人もから言葉をかけていただいた。中野は一番悔しかったのは近大の学生に「演劇科がないのに、みんな凄くうまいですね」と言われたことだったらしい。「演劇科がないから、みんな頑張れるんですよ」と言い返したらしいが、学科があるとかないとか、実技の時間があるとかないとか、そんなことではないのだ。それに、彼らは唐十郎との出会いや様々な観客との出会いによってこうなったのであって、「演劇」一般に関心があるわけでもなければ、「演劇関連の仕事」に就職したいからやっているわけでもない。「演劇っていいですねえ」というような業界志向の学生たちとは根底から違うのだ。
 最終日にやってきた唐十郎は不満足な出来だった京大系劇団の「少女仮面」と「少女都市からの呼び声」を見た後、シンポジウムと「交流会」に参加したが、芝居と関係なく勝手に「交流」している学生たちや、サインや記念撮影を頼んでくる関係者に対してストレスがたまったらしくホテルの狭い自室で、当日ゲストに来ていた新宿梁山泊の金守珍さん、松本、西堂さん、中野、ぼくを連れ込んで朝方まで倒れるまで飲んだ。近畿大のお二人には今後ともこういうつきあい方をしてほしい。まるで、マネージャーの仕事の引き継ぎのようだが、唐十郎を呼ぶだけでは何かが変わるわけではない。まずはお二人や近大の学生たちの意識から少しずつでも変えていってほしいと思う。ただ、「唐フェス」というこうした迎え方をしてくれたこと自体に対しては、唐さんもぼくもとても感謝しているということは付け加えておきたい。ちなみに唐さんは8日から泊まりがけの「人間ドック」に入ったが、何の異常も無いことが分かって絶好調だ。さっきも「入院中食べれなかったから、メンチカツとか魚とか大量に買って劇団で飲み会するから、中野や室井さんも来ない?」と電話があった。ぼくは会議で無理だったが、きっと中野は連日の徹夜と宴会続きにもかかわらず駆けつけたことだろう。
 その後、7日に一日がかりでテントをバラし、2台のトラックに荷積みをしたあと、8日の朝からトラック組と「青春18切符」組に分かれて、夕方に大学着。荷下ろしをして8:30位まで働きづめに働いた連中は、ぼくの差し入れした焼き肉を食べてからようやく家路についた。さすがに疲労困憊していたが、それでもきちんと後片付けをして散っていった。
 ぼくが感動するのは、自分の学生に対する「身びいき」でもなんでもなく、きっと近大の学生たちと基本的に同じようなものだった唐ゼミの学生たちが、唐十郎や唐ゼミという「装置=メディア」と触れることによって、こんなにも短期間に、こんなにも奇跡的に変化していくという事実である。出会いが化学反応を引き起こすというのは本当なのだ。そして、それは学校とかカリキュラムとか演劇科のあるなしとかとは全く無縁なことである。そして、同年代の若者たちと比べて、「唐ゼミ」という「触媒」が、どれほどまでに人間の元々持っている力を引き出すことができるのか、ある意味ではまざまざと目にすることのできた3日間だった。それが秋に予定されている新国立劇場での彼らのメジャー・デビューにどういう爆発を引き起こすのか、是非見てみたいと改めて思う。

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