« 壁の中の日常 | トップページ | 徒然 »

2005.03.15

ぼくはタバコをやめません

 たまたま髪をカットしに行った美容院で手渡された雑誌「ブルータス」3/15号「COFFEE AND CIGARETTES」で、養老孟司さんがタバコについて答えたインタヴューを読んで面白かった。
 養老さんは、「嫌煙運動」が、ベトナム戦争の時の「枯れ葉剤」に対する環境保護団体の批判を防ぐためにニクソン大統領が意図的に「反捕鯨運動」を盛り上げさせたのと同じような巨大な政治的陰謀だと考えているらしい。「タバコの害」について、誰が責任を取るのかが全く明確にされておらず、全く論理的に検証されない形で、単に「悪いものは排除しろ」という単純でヒステリックな「正義」だけが声高に語られる状況を嘆いている。
 タバコの害に関する疫学的データのほとんどが全く不確かであることにも触れている。
 国立ガン研究センターの「タバコは肺がんの原因になる」というデータが全くいい加減であることが分かってから、急に気管支や心臓にも悪いとか、COPDの原因になるとか、矛先が変わっているが、実はCOPDとタバコの関連性も全く定かではないのだ。タバコの害に関する疫学的データについては、ぼくも以前調べたことがあるが、ほとんどが全く論理的に納得できるものではないものだった。含有物を抽出して濃縮したものを毎日マウスに注射したり(注射のストレスだけでガンになるかもしれない)、副流煙を希釈させずにラットやウサギに吸わせて血流の流れが止まるを見せたり(空気中に希釈させろと言いたい)、人為的に作り上げた偽物の真っ黒な肺の写真を出したり(生体ではヤニやタールは末端にだけ付着し、肺全体が黒くなることはありえない)、対抗するような調査結果や実験データを故意に隠蔽したり(たとえば最近カリフォルニア大学が一人だけがスモーカーの夫婦数千組を調査して、副流煙の影響はほとんどないと結論したデータなど)、それらがタバコ会社から資金提供を受けているから非科学的だと一方的に非難したり、愛煙家の言うことは「中毒者の戯言」だから聞く耳をもたなくてもいいだとか、ほとんどむちゃくちゃだ。疫学者たちは「発ガン物質」を発見すれば利益につながる。日本医師会も禁煙治療で儲けることができるので、それを宣伝する。もうみんな忘れてしまっているが、SARSが発生した時に原因を特定できない疫学者たちの無根拠な「命令」によって、どれほどの旅行業者が倒産したり、指定地域の人々が差別されたり、数多くの人たちの運命をめちゃくちゃにしたことか。一体、そのことの責任は誰が取ったのだろう? また電磁波を怖がる「白装束集団」が別に何も悪いことをしていないのに、どこに移動しても追い払われたことも思い浮かぶ。 こうしたことが「医学」とか「科学」とか言う名前の下で為されているのは、かつての魔女狩りとなんら変わるものではない。人々のそうしたスケープゴートを求める心理に便乗してメディアもまたそれをあおる。
 単なる科学的「仮説」にすぎないものをあたかも科学的に「証明されている」として、それを政策や法律を通して押し付けるファシズムによって、地球温暖化はCO2排出量のコントロールよって阻止できるという不確かな「科学的仮説」から京都議決書が採択され、社会に大きな影響を与えていることが「おかしい」と、『バカの壁』ではっきりと述べられているが、きっとタバコに関しても同じことを言えば嫌煙家の読者の反感を買うという編集者の判断で削除されてしまっていたのだろう。論理的にはどちらも全く同じことである。脳死法案もそうだし、名前を口にするだけでも恥ずかしい「健康増進法」もそうだし(こうした法制化と嫌煙運動のルーツは両方ともナチスドイツにあり、それがユダヤ人虐殺につながったということも、養老さんは指摘している)。
 もう一つは、同じ号で内田樹さんも書いているように、タバコは生活と結びついた「文化」だと言うことだ。文化は要素に分割することはできず、さまざまなネットワークによって他の要素と密接に結びついている。その中の一つだけ、たとえばタバコだけ排除するということをすれば文化のバランスが崩れる。それは文化のリンケージを破壊してしまう。作物を荒らす「害獣」を排除すれば生態系全体が大きく歪むということと同じなのである。タバコは身体に悪いだろう。だが、言われているほどは悪くない。あるいは、たとえば酒や他の食物と比べてもそれほどまでに卓越して「悪い」ということは、全く「科学的に証明」などされてはいない。そもそも「悪い」ものを追放せよというような考え方が貧しいのだ。「私たちの街には暴力団はいらない」という標語が掲げられている道を毎日通るが、それでは「暴力団」はどこに行けばいいのだろうか。目に見えないところにいるのなら安心できるのだろうか。こうして、ぼくたちの生活からはさまざまなものが失われた。焚き火や畳の部屋や縁側やゲタや着物が……。それら、それ自体としては重要ではないものが失われた結果、どれほどまでにぼくたちが大切なものまで失ってしまったことだろうか。
 有用なものだけがあればよく、不要なものや「悪」はすべて排除すべきだというような思考は本質的に貧しい。吉岡洋は、「それ自体は重要ではない何か」で、「それ自体は重要でない何か——それは「重要」で「有意義」なものばかりで埋め尽くされている世界の隙間、裂け目のようなものだ。だが、生の秘密とは、本当はそうした裂け目をとおしてしかかいま見ることができないのである」と書いている。
 タバコそれ自体は個人の嗜好品だ。それ以上でもそれ以下でもなく、それについて声高に語るほどのことはない。だが、それを声高に語ることが「正しい」と主張し、自分が「正しいことを言っている」と固執する人々は、自分たちが「正しくない」ものをすべて抹殺しようとしていることを自覚していない。おそらくタバコの煙は「目に見える」ために、攻撃目標になりやすいのである。「身体にいい」ことに偏執狂的に固執している人たちは、養老さんが言うように「生きていること自体とても身体に悪い」という生き物としての真理を忘れている。
 ロサンゼルスに行った時に、むしろ日本よりもずっと喫煙に寛容で、ストレスを感じないことに驚いた。ニューヨークでもタバコを吸う人たちは沢山いる。アングロ=サクソンのピューリタニズムから始まったこの嫌煙運動という「正義」が、なぜか日本で世界一過激で暴力的なものになってしまっていることに改めて驚いた。丸の内のオフィス街に行くと、立派な背広を着た紳士たちがビルのひさしの下の生け垣の中でこそこそタバコを吸っている(歩道だと条例違反になるため)。屋外で自由にタバコを吸えない国なんて、戒厳令を敷いてでもいないかぎり世界中で日本しかない。
 そう言えば、半年くらい前に学生と「ぷらっとこだま」に乗って関西に行った時のこと。禁煙車になってしまったので、駅で通過待ちの時間を利用して米原のプラットホームで一服していたところ、電車を降りて通りすがりの若い女性に「ホームは禁煙ですよ。ルールを守ってください。分からないんですか?」と突然強く言われた。乗降客はほとんどいないし、しかもそこから三メートル先が喫煙コーナーになっていてそこに向かってる途中だっのだ。あっけに取られていたが、後から何も言い返せなかった自分に猛然と腹が立った。喫煙者が「禁煙」の張り紙の前でタバコを吸いたくなる気持ちになるのはこういう時である。大雨が降っていて、周囲に誰もいないのに、律儀にホームの端の喫煙所までわざわざ行って吸っている人を見てもいやになる。こういうのは、マナーとかルールというようなものではないだろう。車が一日に数台しか通らない見通しのいい道で信号待ちをしている歩行者はルールを守るから偉いのか?  ただのバカなんじゃないか? 地方都市で「大人も信号を守りましょう」というような交通標語を見て(多分、子供が真似するからというようなことからだろうが、「大人なら、交通信号守らなくてもいいの?」みたいな子供口調の標語も多い)、もしぼくなら「そうだよ。まともな人間なら自分の目で判断して必要がなければ信号守らないよ」と言いたくなるのだが、こういう当たり前のことが通りにくくなっているのが現代の日本だと思う。

« 壁の中の日常 | トップページ | 徒然 »

「Non Section」カテゴリの記事

コメント

たばこを吸う人は、吸わない優良な市民を死に追いやってるのがわからないオバカさん達みたいですね。

失礼しました。先の発言中、

>上の投稿記事内に

と書きましたが「下」でしたね。すみません。さらには「通りすがりの医師」さん。

>これでも、タバコが健康に有害でないと本当に思われますか?

と何か専門家であること(それが事実かどうかを証明もせず)を楯にとって脅迫めいたことを口にされていますが、はてこの方の紹介されているエピソードから、なぜ「タバコが悪い」と分かるのでしょうか…。

気持ち悪いですね。

お邪魔します。一日記ブロガーです。

上の投稿記事内に
>タバコによってのどが締め付けられたり、肺が苦しくなったりいたとしたら、

と書いておられる方がいらっしゃいますね。最近診断書や具体的にどういう病をお持ちなのかは明示しないまま、こういうコトを仰る嫌煙家の方がいらっしゃいます。ウチの会社にも敬虔な某教徒の方で、必殺兵器とばかりに口にするヒトがいます。

はて、「こういう風に言え」というマニュアルでもあるんでしょうか?

ある教授は、毎年の健診で何も問題なく、高血圧も糖尿病もありませんでしたが、ヘビースモーカーでした。

50歳代前半のある日、心筋梗塞を起こしてその日のうちに亡くなり、asahi.comのトップページ(おくやみ欄)に載りました。
解剖の結果、冠動脈はどれも綺麗で狭窄はなく、仮にカテーテル検査を行ったとしても予見は不可能でした。

これでも、タバコが健康に有害でないと本当に思われますか?

毎日1箱以上吸われる方は、明日自分が居なくなっても大丈夫なように、遺書と仕事の引き継ぎを充分に作っておいてくださいね。

プラットホームでの話し。
>乗降客はほとんどいないし、…(略)

”ほとんど”ということはその通りすがりの女性以外に他にも数名いたわけですよね?そもそも「喫煙スペース」は完全分煙にしていないため、屋外であるにも関わらず数メートル離れれてもイヤな匂いが漂ってきて、それだけでも気が滅入ります。(健康どうこうの前に生理的に)
もしその「通りすがりの女性」を含めまわりの人の中で、タバコによってのどが締め付けられたり、肺が苦しくなったりいたとしたら、どうお思いですか?

ご自身がタバコを吸われるのは結構、いくらでも吸ってください。
でもデータではなく、実際に苦しんでいる人が現実にいるのです。

初めてコメントさせて頂きます。

>米原のプラットホームで一服していたところ、電車を降りて通りすがりの若い女性に「ホームは禁煙ですよ。ルールを守ってください。分からないんですか?」と突然強く言われた。乗降客はほとんどいないし、…(以下略)。

この場にこの女性がいた、ということを忘れてもらっては困ります。乗降客はほとんどいないのであって、誰もいないのではありません。
彼女が室井 尚さんのそこで吸われていたタバコによってどんなダメージ(喉が痛い、タバコの煙を吸い込んで頭痛がしたなど)を受けたのかも理解しようとせずに、室井 尚さんがそう言われることは理解できません。

確かに、タバコは嗜好品です。
もし、他に煙を出さない『どこでも喫煙機』を装着した上でなら、どこでも好きに喫煙なさって結構ですよ(笑)。
http://www.nicosphere3000.com/intro.htm

因みに、どこにも確固たる根拠がないといわれる喫煙の害ですが、熊本大学循環器内科教授であった泰江弘文教授は冠動脈がけいれんして細くなって起こる狭心症(冠れん縮性狭心症)が喫煙によって直接引き起こされることを証明したと記憶しています。心臓カテーテル検査を行い、狭窄のない冠動脈が、心臓カテーテル検査の最中に患者が喫煙することにより、きゅっと狭窄し、冠れん縮性狭心症発作を起こしたと講演されているのを聴きました。

記憶違いではないと思いますが。

>日本医師会も禁煙治療で儲けることができるので、それを宣伝する。

禁煙指導がどれだけ時間がかかり、さらに通常の医療より労力を要するにもかかわらず行われてきているのかを知らずに、憶測のみで話をするのはどうかと思います。
禁煙指導でどれほど医療機関側が儲けていると言われるのですか?
禁煙指導せず、煙草を吸わせてバンバン患者を増やした方が医療機関が儲かるじゃないですか?
タバコで肺癌患者が増えるなら結構、タバコでCOPDが増えるなら、なお結構。一生の病気ですから、換気不全になって酸素吸入している患者を抱えた方が医療機関は儲かりますよ。
因みに、薬を使わない禁煙指導を30分しようが、1時間しようが、医療機関側の保険点数は増えませんし、儲かりはしません。儲けを考えるなら、禁煙指導なんてしないほうが多くの患者を短時間のうちに捌けるはずです。

以上、反論をお待ちしております。

室井さん
コメント返していただきありがとうございます。
期待して待たせていただきます。
>あまりにも不気味
なことを期待するのも変ですが。
各国タバコメーカは存在するので、金にかかわらないことなのかなと思ってました。
まさか禁酒法に似せた禁煙法などを作らせ、日本のアル カポネを儲けさせるなんて話じゃないですよね。
突拍子過ぎました。

柳橋さん、コメントありがとうございます。面白そうなblogをやっていますね。さて、このエントリーを書いてからいろいろなことがあって、まずはうちの学内だけですが、ぼくの書いた「嘘まみれの嫌煙キャンペーンを大学人はどう考えるのか?」という文章が載ったバンフレットが出ます。その時はまたここでもご紹介したいと思っていますが、いろいろな資料を調べてちょっと愕然としたことが沢山ありますので、その時にはまた是非読んでやって下さい。別に何か運動を起こしたいわけではありませんが、とにかくこの問題、余りにも不気味です。

この記事に出会うまでずーっと独りで悩んでました。
健康増進法って何。
余計なお世話だろうと思ってました。

どっかの大国の戦略のやり方に臭いが似ているし、友人に聞いても、結局タバコは止めたほうがいいよなんてアドバイスされる始末だし。
捕鯨の時は多くの方が気付いて、それなりの発言や行動があったけど、今回は国ぐるみで動いていて気持ちが悪かった。

テキヤは悪いと祭りからテキヤを排除した市が遭ったけど、思いっきり観光客が減って祭り自体も年々規模が小さくなっていっている。
文化的なものを、大人の判断で守っていく姿勢はこれから少しずつ盛り上がってきてほしいもんです。

ありがとうございました。

ぼくも、タバコはやめません。

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/16230/3310122

この記事へのトラックバック一覧です: ぼくはタバコをやめません:

» タバコはそれほど健康に悪くない [阿川大樹的小宇宙]
 WHOの統計(2002年)で先進国の平均喫煙率は37%、日本は53%。  しか [続きを読む]

» 多様性を誰が否定できるの [居酒屋マーケティング情報誌]
これ書くと嫌われるので書くのをセーブしていましたが、書いてみますね。 反対意見ありと覚悟して。 タバコの話です。 どんどん禁煙化が進んでいますね。 居酒屋でも全面禁煙のチェーン居酒屋が出来たことがニュースになっていました。 違和感を感じていました。 健康増... [続きを読む]

» ま、一服して落ち着きましょう。 [ビバ!ダイナミックBlog@おたく鍋]
俺は喫煙に関しては超肯定主義で、何かと眉を顰められる人間なのだが、それは眉を顰める側・嫌煙ロビイのやり口が気に喰わないから、露悪的にそうしている面がある。 加えてそういう自分が好きなんだろうなあ、とつくづく思いつつ、こういうヤツラに屈するのがイヤなんだなあ、と。 ▼俺の愛するピース・ミディアムのデザインが2度目のモデルチェンジ。 初代の画像が見つからないので2代目から。コレが…     この始末。 「肺気腫の危険性を高める=直接ではない」 「肺がんの原因の一つ=じゃ他にどんな要因が必要... [続きを読む]

« 壁の中の日常 | トップページ | 徒然 »

最近のトラックバック

2017年8月
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31