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2005.07.14

「マルチナイト」終了

 毎年、一年生の「基礎演習」という科目を担当する。一学年百人程度をランダムに15,6人規模の「クラス」に分け、ゼミ形式で大学生活のガイダンスをするというような趣旨の授業だ。以前は「グループ・ガイダンス」という名前で課外活動としてやっていたが、どうせなら単位を出してしまおうということで四年前からこうなった。担当者によっては研究会形式でやっていたり、放し飼い的に課題だけを出したり、みんなで外に遠足に行ったり、やり方はさまざまだ。楽しんでいる担当者もいるし、これが苦手であまりやりたがらない同僚もいる。
 ぼく自身はこの授業がとても好きで、大学に入りたてで不安定な時期の一年生と徹底的につきあうのは毎年楽しくて仕方ない。たいていはみんなでWEBを作ったり、学内で展示するアート作品を作ったりというようなことになるが、昨年は「手づくり煎餅」を作るという意外な展開になった。
 余りに彼らが出してくる企画がつまらなく、すべてに駄目出しをしていたら、ついに学生が逆切れして、「昼休みを何回も潰して企画立てたのに全部駄目だと言われる。他の基礎演習のクラスは楽しているのに俺らは室井さんのクラスになっちゃって凄く不幸ですよ。くじ運が悪かったとみんな言っています」というようなことを言う。すかさず、「それは不幸とか不運とかいうものではない。それがお前らの<宿命>なんだから逃げられないぞ」というようなことを言って更に脅すと、「じゃあ、室井さんはどんなんだったらいいんですか? テレビに出るとか、ギネスブックに載るとかですか?」と聞かれたので、「テレビは違うけど、ギネスはちょっと近い」。「分かりました。じゃ、ギネスで世界最大のピザとか世界一長い巻き寿司とかあるじゃないですか? 直径10mの草加せんべいとかはどうですか?」と言ってくるので、「うーん。かなり近いね。それは不可能だと思うけど、そんな感じの発想で別のことを考えてくれ。」と言ったら、逆切れしているから、「いや不可能ってことないですよ。野外でみんなで焼けば作れますよ?」と突っ張って来た。「分かった。不可能だと思うけど、とりあえず普通のせんべいが作れなければ世界最大のせんべいはできないわけだから、来週までにせんべいを焼いてくるか?」と軽く挑発したら「やってやろうじゃありませんか。ネットで簡単に作り方調べられますよ」ということになった。
 そして、次の週になると無惨な「せんべいらしきもの」がいくつも並んだ。彼らはネットですべての知識を得ることはできないことを学んだようである。上新粉を練った生地で作るせんべいでは直径10mが物理的に不可能であることも分かったようだ。学生たちは、「すみませんでした。あきらめて別の企画立てます。ただ、このせんべいですが、結構一生懸命やったのにこんな出来だったのが悔しいので、もう一回だけせんべい焼かせてくれませんか?」というようなことを言うので、OKを出した。そこから怒濤の製品開発が始まった。彼らはネットを捨てて、浅草や横浜の「手作り煎餅屋」めぐりを始めたのである。店の人に実際に生地やたれの作り方や焼き方を聞きに行ったのだ。その結果、意外なことが分かった。実は「手作り煎餅」は「手作り」ではなかったのだ。ほとんどが新潟や山形の工場から半製品を買っている。生地は三日間天日干しして水分を抜かなくてはならない。その手間をかけると採算が合わないので、機械生産された生地を買ってきてそれに味付けして焼いているだけなのだ。だから「手焼き」ではあっても「手作り」ではない。彼らが取材した浅草の煎餅屋によると東京では生地から手作りで作っているのはその店一軒しかないと言う。しかもそこでも一部は機械化されている。横浜で取材した結果もそうだった。ということは、現代の日本では完全手作りの煎餅はどこにもないということになるわけだ。それが分かって彼らは燃えてきた。日本にどこにもない完全な「手作り煎餅」を自分たちが作るのだという思いが彼らの心に火をつけた。空いている研究室を彼らに貸したら昼も夜も彼らは煎餅作りに取り組むようになった。エビ煎や瓦煎餅、チョコレート味やピーナツ味の煎餅などにも挑戦し、炭火焼きのほか、アイロン、電子レンジ、フライパンなどさまざまな調理器具が試された。その結果、一番出来がよく湿気にくい醤油味の草加せんべいを製品化することになった。焼くのはオーブントースターである。友達からかり出して来た十台以上のオーブントースターを動かして研究棟のブレーカーが落ちて停電したりしたこともあった。メンバーの中で一番おとなしかった小柄な男の子が難しい生地作りの腕で急速にグループの要的存在になってきたりしたのも面白かった。これをオープンキャンパスの時に受験生に売ろうということで、CMを作ったり看板やコスチュームを考えたり、パッケージを考えたりして楽しかった。結果的には300セット600枚の煎餅を二日間で完売し、みんなで焼き肉で打ち上げをした。
 それで前置きが長くなってしまったが、今年のクラスがやったのが上記の「クラブイベント」である。クラブイベントは学生たちの間では日常的なものだが、入り立てでクラブなど行ったことがない一年生が企画を立てるのが面白い。最初のうちは「暗くなったから帰っていいですか?」と言っていた連中が関内のクラブでオールナイトイベントをやるようになるのだから凄い変化だ。何しろ、行ったことがないということで何人か青山辺りのクラブを「見学」に行ったりしていたのだから。こういうことがあると、マルチの上級生や卒業生も喜んで参加してくる。バンドや映像、パフォーマンスなどの企画が盛りだくさんの楽しいイベントになった。百人以上集まってなかなかのにぎわいになった。ただ単に夜通しわいわいと一カ所にいるだけでも、何かパワーが伝わって来るようだ。今回もいろいろな衝突やトラブルもあったが、そこそこ連中も頑張っていたし、こうして成功することができてうれしい。というわけで、ぼくは1:30頃に退出したがまだまだ沢山残っていて楽しそうだった。

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