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2005.08.30

全州訪問(その3)

 それにしてもテントが張られたソリ芸術村という施設はとてつもなく巨大だった。劇場、美術館、資料館など大きな建物が広大な敷地に広がっている。そればかりではなく、全州市内にはさまざまな芸術文化施設がある。初日に聞いた道立伝統音楽団もそうだが、舞踊団や、劇団なども数多くある。これらをすべて行政がサポートしているのだ。この背後には、朝鮮民族の伝統文化を守ろうというナショナリズム的な文化政策があることは言うまでもない。ある意味で興味深かったのは、町の繁華街でもテレビでもそうだが、若い人たちは髪の毛を染め、最新のファッションやポップミュージックに敏感だし、ドラマやワイドショーを見ていても、日本とあまり変わりがないようにも見える。だが、彼らにしても伝統文化や民族舞踊を本気で尊敬しているようだ。朴さんが演出する音楽劇も伝統文化に基づいた歴史劇のようなものが多い。要するにこうした文化は彼らの「鏡」として機能しているようなのである。ミュージカルのプロデューサーをしている女の子と話したが、鼻にピアスを入れて、胸元が大きくあいたトップスを来ている彼女が、私は民族ミュージカルが一番好きだと酔っぱらっているにもかかわらず真剣に言っている様子を見て、これが建前でも押し付けられたものでもないことを納得せざるをえなかった。
 考えてみれば、日本人が歌舞伎や能に対してもっている感情と、彼らがパンソリやマダン劇に対して抱いている感情は似て非なるものなのである。つまり、後者においては17世紀頃以来外からの文化的、政治的侵略の中で失われ、破壊され、奪い取られてしまった民族的伝統の「再構築」が問題なのだ。受け継ぐことではなく、作り出すことが問題なのである。日本の支配から解放された戦後の韓国では、こうした民族的アイデンティティの拠り所を、まるでずっと昔に無くなってしまったお祭りを復活させるようにして、新たに見出し、それを現代の世界につなげていくことが重要な課題だったのだ。したがって、韓国の民族主義やナショナリズムとは単なる復古主義ではなく、未来に向けられた構築主義的なものなのである。それは日本のナショナリズムや伝統主義とはその方向性において全く別のベクトルをもっているのだ。もっとも最近の日本の「プチ・ナショナリズム」はまたちょっと異なっているかもしれない。その辺りの微妙なニュアンスが、たとえば韓国人や中国人の反日感情や民族主義を大雑把に抽象的に捉えて、それに反発したり非難したりするようなメディアでよく見られる論調には欠けている。要するにこうしたナショナリスティックな動きは観念やイデオロギーではなく、実際に「生きられた」ものなのだ。
 だが、たとえば日本で「韓国の文化芸術」を紹介するといったときに、こうしたことは理解されにくい。古典的な伝統文化に対する敬意はもつことができても、それが現代においてアクチュアルな意義をもつという感覚が日本人にはない。ましてや、それを現代風にアレンジしたり、伝統楽器で西洋風の音楽をやるというようなことになると、何だかセンスの悪い紛いものを見せられているような気分になることも確かである。中国に行った時に民族衣装を着た女性たちが編鐘(銅鐸のような古代の楽器)を使って、カーペンターズやサイモン&ガーファンクルを演奏した時に感じたような奇妙な気持ち(編鐘は実際にどうやって演奏されどういう音楽に使われたのか分かっていない。音階順に吊るしてバチで木琴のように演奏している)、たとえば女子十ニ楽房が中島みゆきの曲のカバーを演奏していると何かしらキッチュな感覚を受けるわけだが、それは要するに我々日本人が「国際的」(ということは、アメリカ的)な文化市場を暗黙のうちに受け入れているからにほかならない。YMOがかっこ良かったのは英米のヒットチャートに入ったからだし、ハリウッドに進出できれば、グラミー賞や国際映画祭にノミネートされれば一流という感覚でしかわれわれは異文化を受け入れようとしない。韓国映画や韓流ドラマはその壁を突破した訳だが、伝統ミュージカルのようなものはそのままでは難しいだろう。そうなると全州大学の公演を成功させるためにはどうしたらばいいのだろうか。そんなことを考えていた。あのパワフルで熱い気持ちをもった若い学生たちに日本に失望して欲しくないし、受け入れる日本の観客たちにもそれを伝えるにはどうしたらいいのだろうか? 朴さんからのメールを読みながら考えた。
 新宿梁山泊の三浦信子さんから、もう接待はしないと言っていたにもかかわらず、結局翌日のバラシの後も朴さんが焼き肉をおごると言いだして学生たちとカラオケまでして盛り上がったというメールがきた。朴さんはおそらくへろへろになりながらも、パワフルにホームページに動画や写真を続々とUPしている。彼がやっている伝統ミュージカルとはどういうものかは、もう一つのホームページを見るとよく分かる。

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