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2005.08.28

全州訪問(その1)

 さあ、全州から帰ってきた。四日間留守にするといろいろなことがたまってしまって対応に追われている。やらなくてはならないことの締め切りがいくつも重なっているので、旅行について書こうと思っても、書かなくてはならない印象的なことが多すぎて一度にはとても無理だ。とりあえず、一日目と二日目のことだけ書いておこう。
 もう少し頑張れば良かったのかもしれないが、羽田便の予約が取れなくて成田発になってしまった。仁川空港から直行バスが出ているのでそれでもいいかと思ったのだが、結局バスは金浦空港と汝牟島も経由して行くので同じ事だった。やはり成田は遠い。空港まで二時間、チェックインから二時間、機内で二時間、バスが四時間半、乗り換えやホテルまでの移動を入れると全州までまるまる半日かかる。移動に疲れてしまった。
 日本を立った日はバスの終着駅の全州コアホテルについたのが夜の九時半。地図を見て宿泊先まで歩こうかとも思ったが、周囲をぐるぐる回ってみるととても複雑そうな街に見えたのであきらめてタクシーに乗る。宿泊先の全州観光ホテルは、全州で最初にできたホテルだということだが、ごちゃごちゃとナイトクラブやバーが並ぶ路地にあって、簡素なホテルだった。全州の中心部は古い町並みなので道が狭くとてもごちゃごちゃしている。その周辺に新しく開発された高層の団地や広い郊外道路が広がるといった構造だ。部屋もシャワーと洋式トイレがついた浴室と、オンドルの床になっていてあまり柔らかくないダブルベッドが置いてある。テレビと冷蔵庫とエアコン。ソウルで泊まったのもだいたい似たような感じだったが、今回は給水機も魔法瓶もないのでお湯が洗面所のものしか使えないのが誤算。これではカップラーメンも作れない。近所のコンビニで買い物をしてテレビを見ているうちに就寝。
 翌朝九時半に朴炳棹(パク・ビョンド)さんが、美人の韓国人女性を連れて来訪。彼女はパク・ヒョンヨンさんと言って、全北大学大学院で日本語の勉強をしている。全州大学ともパク・ビョンドさんとも演劇とも全く関係なくただ単にぼくの通訳として連れてこられたらしい。彼女を通してホテルのカフェで打ち合わせ。実は、金守珍さんから頼まれて全州大学の演劇科の学生たちの公演を日本でやりたいので協力してくれないかと言われている。そのために学部間の姉妹校協定を結びたいというので、その手続きをしにきたのだ。ぼくが関心をもったのは金さんの推薦もあるが、彼らが呉泰錫(オ・テソク)の「春風の妻」をやりたいということ。「韓国の唐十郎」と呼ばれ最近は欧米での活躍も目立つこの作家の作品に関心があったからだ。ソウルで呉泰錫さんにはパク・ビョンドさんと一緒に会っている。それを三十人近くの学生たちが日本でやりたいということに関心を持ったのだ。パクさんの車で全州大学へ。山裾に広がる巨大なキャンパスだ。演劇・映画学科は現在新しい建物を建築中で、工事中の施設を見せてもらった。七百人入る立派な大劇場、三百人規模の小劇場、大小のリハーサル室、コンピュータ室、スタジオ、野外の巨大テント劇場まである。もの凄い財力だ。聞いてみると、政府から何百億ウォンの助成金が出たらしい。施設の自慢ばかりでちょっと反発も感じたが、お昼をごちそうしてもらった韓定食屋で話を聞くと、パクさん自身も長い間演劇で食べられずフランス語教師の奥さんの収入に頼っていたが、八年前にこの大学に勤めてさまざまな賞を取るまでに育て上げてようやく評価を得られるようになったところらしい。パワフルだし野心的だ。彼の特徴は伝統楽器を使った音楽や伝統文化を現代に合わせた新しいスタイルにアレンジしていくところにあるらしい。日本公演の時には連れてこられないが五十人規模の民族音楽団と一緒によく仕事をしている。そこで、是非とも聞いてもらいたいということで、わざわざ道立芸術館に連れて行ってくれて、そこで五十人のオーケストラがわざわざぼくのために演奏してくれた。これがなかなか素晴らしい。笛類、打楽器類に加えて、さまざまなタイプの琴や胡弓類のストリングスがきわめて不思議なハーモニーを作り上げている。ちょうど「女子十二楽房」を何倍にも膨れ上がらせた感じだが、それよりもっと複雑でモダンで迫力がある。これには驚いた。
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 そして、本番前の梁山泊テントへ。ソリ・アートセンターという郊外の巨大な複合文化施設の駐車場にテントが張ってあった。パクさんの学生たちが二十人以上ボランティアで入っていて、現場は若やいでいて賑やかだった。全員とても充実した元気そうな表情だったので安心した。ソウルでは疲れていた大貫君も元気そうだったし、近藤結宥花さんの顔色がとてもいい。
 木曜日だったし雨だったこともあって客入りはいま一つだったが、関係者が多いこともあって観客は大盛り上がりで舞台もとても充実していた。今回初舞台なのに天然で目立っている淫腐役の米山君などは、いろいろ小技を開発していて笑える。というか、今回は教授と三腐人が異常に受けている。黒沼さんの怪演もますます冴え渡っているし、近童弐吉さんの高田三郎はソウルの時よりもずっと凄みを増していた。とにかくダンサーや航空兵役まで全員生き生きとしているのがいいのである。ソウルでは唐さんのそばにいなくてはならないので後ろの席で見るしかなかったが、前から四列目辺りの八百屋の裾でじっくり見ることができてうれしかった。近藤結宥花さんの表情の変化がとても良い。まるで上質のジャズのライブのように、彼女の中の感情と身体の動きや表情が台詞と完全にシンクロしながらどんどん相乗的に高まって行く様子がよく分かる。それが伝わるようにして後ろの航空兵や三腐人たちの動きのキレがどんどん良くなって行くのにも興奮した。今回の零戦は後ろの空間がせまくすぐに森になっていたのが残念だが、やはり観客は総立ちで大歓声が起こっていた。
 ソウルとの違いはいろいろあるが、幕前の粗筋のナレーションの量が増え、それをプロデューサーの馬政熙(マ・ジョンヒ)さんが読み上げるようになっていた。できるだけわかりやすくという配慮だろうが、それでも三幕の頭でエリカが死んだと思って織部がショックを受けるというようなシーンの衝撃力が落ちてしまう。二幕でエリカが刺されるところ、エリカが死んだと思い込むところ、織部が刺され、エリカが石で歯を折られるところなど、あらかじめ粗筋を伝えておくとどうしてもインパクトが落ちてしまう部分が惜しい。
 宴会が終わった後、一緒のバスに乗せてもらい彼らの宿舎の学生寮。近くのサウナにつきあうということだったのだが、結局は大久保鷹さんの部屋で二人で三時前まで焼酎を飲んでしまう。大久保さんの話をいろいろ聞きながら、いずれにしてもとても大きなプロジェクトをこの劇団が現在成し遂げていることがよく分かった。どうして、もっと日本からメディアが取材に来ないのだろうか。ここで起きていることは、どんな「文化交流」よりももっともっと凄いことのはずなのに‥‥。流石に二人とも眠くなって、どこか町の北の方だと思うが全然自分がどこに居るかわからない場所から何とかタクシーを捕まえてホテルに戻った。

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