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2006.03.18

「唐版俳優修行」@中野光座

 お蔭様で父は17日に無事に退院した。腰の痛みも消えつつあり順調なようである。かなり元気なのでこれならまだまだ頑張れるだろう。その日は中野の光座で初日を迎えた松本修演出の「唐版俳優修行」に顔を出す。唐さんも来ていたので、隣り合わせで観劇という苦行。何しろ何かというとちらちらとこちらの様子や反応を見られてしまうので緊張する。松本さんは昨年秋に近畿大学卒業生を中心としたmode(小文字のMODE:プチ・モード)を結成して、彼らの卒業公演の「唐版風の又三郎」を新宿まで連れて来て再演している。今回は、大人組のMODE(区別するためにみんな大モードと呼んでいる)とこのプチmodeが同じ作品を上演するのが特徴。自分たちのバージョンではない時にも残りのメンバーは書き割りや端役などをやって協力する。二つの世代やキャリアが違う集団が同じ作品を同じ場所で公演するということと、場所が光座という廃映画館であるということが今回目につくポイントだ。今回見たのは大MODE版である。
 「俳優修行」は唐十郎作品の中では比較的構造がはっきりしており読みやすい作品だ。と言うよりも一幕劇でかなり短い。印象としては書き続けることを断念して一幕で中断した作品のようにすら見える。成田の三里塚鉄塔に立てこもる反対派の一人が機動隊のガス銃の直撃を受けて死んだ事件をモチーフにしているが、夜間高校の演劇部出身の劇団研究生が、いまは警察学校に変わり機動隊を養成している母校を訪れて、街頭劇をしながら俳優修行をするという、珍しく身も蓋もない設定で、政治と演劇、現実と虚構などの二項対立がずらされながらもずっと持続していく。面白いのは、なぜ成田闘争という「対立」の場所に、演劇という「ドラマ」(対立)を持ち込み「俳優修行」をそこに位置づけたかという問題意識と、登場人物たちの語る演劇論だ。シェークスピアに扮して後半では「小劇場の鈴木」(松本演出では「小劇場の鈴木忠志」とファーストネームまで入れてしまうのはやり過ぎだと思う)と名乗る演出家や、おかまの機動隊員、尾行すると鬱病になってしまう警官などキャラクターが立っている。というわけで、久しぶりに読んでみたが、それなりに結構面白い戯曲である。ただ、唐十郎的には一番悩んでいて行き詰まっている感じも濃厚な作品である。何よりも本当にガス銃を登場人物に向けて発射してしまったり、ヒロインの絶叫で暗転というラストシーンもきわめて珍しいし、「らしく」ないのである。70年代から80年代への断絶と、過去への訣別の意識を強く感じさせるし、その三年後に書かれた「お化け煙突物語」(唐ゼミが4−5月に公演予定)と比較してみるとなかなか興味深い。
 松本演出は鉄骨で成田の鉄塔をイメージさせ、障子や書き割りなどが持ち込まれるる簡略なセットと、NHKのプロジェクトXで流れる曲をずっと流して、構図だけを決めてあとは役者たちに任せるという形式。役者たちは戯曲の構造と台詞をきちんとしゃべることを優先させ、余り個性を出させないという演出のように見えた。鉄塔を模した装置の上に「ひとで」を追いかけていった元演劇部出身の機動隊員を追い求めて屋上から飛び降りたという「田口」がポツンと案山子と向かい合って座っていたり、最後には機動隊員が鉄塔の上に登ってしまったりといった辺り、松本がこの戯曲の構造を借りて9.11以降の世界における演劇の位置を浮かび上がられようとしている意志を感じさせられた。
 ただ、光座というある意味で「野蛮」な場所がうまく生かされていない。また、役者たちも初めての唐の世界に違和感があるのかちぐはぐな印象を受けた。風又の時もそう感じたが、いわゆる演劇の世界に深く足を踏み込んでしまった人には唐の世界は途方も無く大きな壁に感じられるのかもしれない。そんなことを考えながら見ているとそれなりに興味深い。松本修はまだまだ唐作品に挑戦を続けていくつもりらしいので、見守っていきたい。20日の月曜日には唐ゼミ★から客演している杉山も出ているプチmode版を観に行く予定。

#追記
 20日にプチmode版を見た。観客が少なかったが芝居は予想以上に大MODEよりも数倍面白かった。こんなことがあるのだとかえってビックリしてしまった。松本さんは、チェーホフやカフカをやるのと同じ心構えでやっていると言うが、キャリアのある役者たちがあれほど苦しみ、若いプチmodeがそれを軽々と乗り越えているのをこれだけ目の当たりにすると逆に考えてしまう。唐十郎戯曲には「演劇」を退ける部分が確かにあるのだろうと改めて思った。

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