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2006.04.17

「秘密の花園」

 北千住の「シアター1010」へ。「秘密の花園」の初日である。
 客席の大半は高齢者と中高年の婦人客。丸井の「0101」のマークと奇妙に符合しているが、「1010」は(せんじゅ)のことらしい。足立区のものだが、管理は民間がやっているので公立の商業演劇劇場というようなポジションのようだ。やたら贅沢。
 「秘密の花園」は82年本多劇場のこけら落とし公演として、緑魔子、柄本明、清水紘治のトリオで上演され、その後劇団唐組が98年と99年に飯塚澄子堀本能礼、稲荷卓央のトリオで紅テントで上演している。今回は、三田佳子、松田洋治、大澄賢也という陣容で、大久保鷹、金守珍、十貫寺梅軒の旧状況劇場トリオ、元「頭脳警察」のパンタ、唐さんの長女、大鶴美仁音なども出演している。制作には高橋康夫さんと、RUPの菅野重郎さんが入り、演出は三枝健起さん。そして「シアター1010」の館長はシナリオライターの市川森一さん、芸術監督は朝倉摂さんと、いずれも唐さんとは深い縁で結ばれた人たちが集結した。高橋さんや三枝さんたちにこの話を聞かされたのが去年の5月あたり。それから一年近くかけてさまざまな経緯を経て実現した公演である。
 「秘密の花園」という作品の素晴らしさについてはもはや多言を要さない。家族や性や社会などの底に横たわる人間存在の根源にまで遡っていく傑作であり、日暮里という土地とも深く結びついている。唐組の公演を見て驚いてしまい、初めて毎日のように紅テントに足を運んだ記憶も蘇ってくる。とりわけ、古びた木造アパートの部屋と汚い共同便所の中に世界の実相が浮かび上がるという、いわば「聖と俗」が交差するドラマツルギーが素晴らしく、何度も深いところから揺り動かされ、一幕と二幕のエンディングでは、必ずわけもわからず涙が溢れてくる。
 この日の公演は初日とあって、まだややぎくしゃくしている部分も見受けられたが、とにかく台詞が素晴らしい。主演の三田さんは「いちよ」と「もろは」の二役を演じ、こう言っては失礼だが全く年齢を感じさせない熱演だった。とりわけ「もろは」を演じている時の凛とした風情がすばらしい。松田洋治、大澄賢也の二人も初めての唐作品に戸惑いは隠せない感じであるが、頑張っていた。舞台を重ねて行くことでどんどん良くなって行くことであろう。本多劇場でも舞台美術を担当した朝倉さんの舞台は素晴らしく、とりわけ後ろの森が照明で突然出現して、アパートが深い森に包まれたかと思うと、エンディングでは単なる下町の路地に変貌しているのがすばらしかった。ただ、こういうのはプログラムの中でご本人が残念がっているように、本当は客席を包み込むようなものであって欲しい。その点でも紅テントというのは素晴らしい装置だと思う。鬼子母神でのテント公演の時のことを思い出した。演出の三枝さんの解釈で部屋が「一階」に設定され、後ろに坂が造られたために、二幕で大雨が洪水となって二階の部屋が水に飲み込まれるようになるという感じが少し薄れたのも残念だった。これも本水を使うということで、どうしても劇場では限界がある。但し、初日からそうだったが、観客の年齢層が高く、昼間の公演で楽しんでから家で夕食の準備をしなくてはならないような観客を見ていると、エンディングが明るく作られているのも仕方ないかもしれないとは思った。エンディングでもう一度ブラームスの曲が入ってしまうと、きっと人は人間存在の「秘密の花園」に足を取られてしまい、それこそトイレで首を吊りたくなるような気持ちになってしまうかもしれないが、それは商用施設の中にある劇場にはふさわしくないのかもしれない。周囲の人を見ていても、長い二幕の最中もほとんどの人が居眠りすることもなく、芝居の中に引き込まれていたように見えた。
 演技的な部分について言えば、二幕でボートが出て来てからの大貫とアキヨシの会話、このやりとりがもう少しこなれてくればさらに良くなるのではないかと思う。増水していく世界の中で、二人が幻想の海の中で交わすやりとりが、ある意味でこの作品の根幹を支えていると思われるからだ。
 だが、いずれにしても終わった後、何度も作中の言葉を反芻したくなる、稀に見る傑作であることには間違いはなく、終わった後、楽屋でのパーティや、唐さんたちと二次会で行った居酒屋でも、芝居についての熱い議論が戦わされていた。平日のマチネが中心なのでなかなか観に行くことができないのが残念だが、千秋楽にもう一度観に行きたいと思っている。15日間でどんな風に変わっていくのかを見るのが楽しみだ。

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コメント

柊さん。お知りになりたい曲名は、「弦楽六重奏曲 第1番 変ロ長調」第2楽章です。これはフランソワーズ・サガンの「ブラームスはお好き」の映画「さよならをもう一度」でもテーマ曲に使われて有名になり、唐さんが使用したもので、「秘密の花園」の上演には欠かせない曲です。70年の「吸血姫」をごらんになられたなんてラッキーですね。うらやましい限りです。

退職間近、団塊夫婦でマチネに行きました。おそらく当初のものとはかなり違うのだろうな、と思いながらも、けっこう楽しみました。実は、以前から捜し求めていたブラームスの曲に出会ったのが望外の喜びでした。若い頃ちょっとした事件とともに深く心に刻まれた曲です。入手したいのに曲名を知りませんでした。教えていただけませんか?
ところで、昔70年ごろテントで「吸血姫」に魅了されました。あれは唐十郎さんでしょうか?あの音楽は、確か哀愁のコルドバでした。

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