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2007.04.21

「愛の乞食」終了。やっぱり若さって凄い!

 三日間限定の学内公演。悪天候がずっと続き、ゲネプロの時も初日の本番も、テントの天井を叩く大粒の雨と骨まで染みてくる寒さに苦しめられた。

 それでも初日から100人を超える観客が入り、二日目、三日目は140、150とどんどん膨らんでいった。ほとんどが学生客だが、パラパラと大人の観客も入り交じる。初日には朝日新聞社の近藤さん、二日目は『教室を路地に!』の編集者・樋口さんたちが来て楽しんでくれた。

 こういう学生による演劇の場合ありがちなことだが、客が入る本番になると大きく化けていく。稽古の時とは見違える程、スピード感と気迫に満ちたいい舞台ができあがった。見る側も演劇経験が乏しく、ある意味では汚染されていない観客たち。役者の熱演と、テントならではの仕掛けにぐっと引き込まれて息づかいが変わるのがびんびん伝わってくる。屋台崩しで海賊船が現れると、首を伸ばし、背中を傾け、去っていく万寿シャゲの行方を見届けようとする観客たちからは、まだエンディングの音楽の鳴り響く途中から拍手が自然発生的に生まれ、海鳴りのような拍手の音の中でのカーテンコール。外ではカンパ箱に千円札から、小銭入れを引っくり返して一円や五円玉まで混ざった硬貨がどんどん増えて行き、雨にもかかわらず興奮した観客たちはなかなかその場から立ち去らない。大雨の中、そんな幸福な初日を迎えることができた。

 二日目からは天気予報が変わって晴れになると聞いて、彼らのテンションは上がりっ放しになる。傑作であることが間違いのない台本と、綿密に練られた演出プラン、照明や音響、舞台美術などのスタッフワークには支えられていても、本番は間違いなく役者たちのものだ。彼らの異常にまで燃え盛った熱が、舞台の上から確実に伝わってくる。始める前のミーティングで危惧された通り、やや空回りして台詞が飛んだりするミスも出たが、それも彼らの勢いで飛び越えて行ってしまう。

 そして、最終日。天気も良く、この公演をとても楽しみであると同時に不安にも思っていた唐十郎と久保井研がやってきた。劇団唐組は照明稽古を終えて大阪に向かう荷積み中の忙しい時期である。唐さんはいつものようにそわそわと色んな質問をしてくるし、久保井君は早速裏に回り、舞台裏の状態をチェックする。

 結果として三日間の中で一番の出来だったと思う。観客も立ち見が出るまで膨れ上がり、終わった後もいつまでも帰らないままテントの前で興奮してしゃべっていた。唐さんもカーテンコールに登場し、出演者の何人かは泣き出すし、終わった後のテントでの宴会でも興奮冷めやらぬ感じであった。顔がぴかぴかしている。山崎雄太が「是非ぼくにやらせて下さい」と言ってきてから約2ヶ月間、「ドラクエ」のように旅の仲間を一人一人増やしながらここまでたどりついた達成感は何ものにも代え難いだろう。まちがいなく彼らにとって「一生忘れられない出来事」になったことにちがいない。

 仕掛人としてのぼくや唐ゼミ☆の中野敦之にとってもこの成功はとてもうれしいものだった。唐ゼミ☆のメンバーも入れ替わりで見て行ったが、弟分たちの熱演に刺激され、多少は嫉妬も感じたに違いない。きっとこれが、次回の「鐵假面」に跳ね返って行くことだろう。初期のメンバーたちはどうしても、2002年に彼らが最初に赤テントを立てた「ジョン・シルバー」や「動物園の消える日」の時のことを重ね合わせてしまうようだ。ぼく自身も、教室棟の前に立つ青テントを見ると、同時に目の奥には「ジョン・シルバー」の赤テントが重ね合ってきてしまう。5年経って、また同じような感動を与えてくれた山崎たちには本当に感謝している。

 唐十郎は本当に感動して涙まで浮かべて喜んでくれた。車で高円寺の大和町に移ってからも、ずっと役者のことや演出家のことを熱をこめて話し続けていた。最近見た芝居の中でも一番面白いとまで言ってくれた。いつものことだが、どうして唐さんはそういう感性を持ち続けていられるのだろうと不思議に思う。自分の作品だから、というのではない。この山崎組の芝居にはあって、他の劇団にはないもの、というものに唐さんはいつも敏感なのだ。だからこそ、唐ゼミ☆だってこうやって続けていくことができたのだ。もちろん欠点はある。演出に対してもいくつかの疑問は残る。だが、そんなことを飛び越えて、この公演がめったに見られない凄いものであったことを、ぼくは確信しているし、その確信を唐さんは裏付けてくれる。そこが唐十郎の凄いところだし、逆に普通の演劇人にはめったにないところなのではないかと思う。

 唐ゼミ☆の新国立公演の時に、少数ではあるが評論家に「役者の技術が全然なっていなくて、水準に達していない」というようなことを言われて腹が立って仕方なかった。どこを見ているのかと思った。確かに、演劇には前にも書いたようにいくつもの層があって、評価軸の取り方は多様である。正直、山崎組を見に来てくれた何人かの大人にも役者の技量不足や装置の不完全さを指摘され、「台本がいいから楽しめたけど、流石にこれで入場料は取れないよね」というようなことを言われた。ところが、唐さんはストレートに「普通に入場料は取れるよ、だってこんなに凄いんだから」と言ってくれる。多分、非常識なのであろうが、それでもそう断言する唐さんは凄い。周囲にいるぼくたちはずっと立ち会っているのだから、見る時にいろいろな情報がプラスされている。技量不足や段取りの悪さには慣れっこになっていて余り気にならなくなっているかもしれない。だが、唐さんはそんなことに関係なく、初めて観ても一目でこの舞台の素晴らしさを見抜いてしまう。それは、地べたと布だけの装置に作業灯の照明だけでやっていた初期の状況劇場から一貫している美学なのではないかと思う。どうでもいいことと、どうでもよくないことの見極め方がとても早くて正確なのだ。そうでない人はどうでもいいことの方ばかり気にしてしまうのであろう。

 実際、ぼく自身もこれは相当凄いイベントだったと思う。学生がやっているから、大学の学内公演であるから、入場料無料であるから‥‥というようなこととは全く無関係に、こんな凄いイベントを一緒に作ることができたことを誇りに思うし、多分、他の劇団や他の大学演劇科では絶対にできないことなのではないかと思う。それは唐さんを大学に呼んでから10年かけて作り上げられて来たこの大学の文化環境なしにはありえなかったのではないかと、多少まあ自画自賛ではあるが、でもきっとそうなのである。

 写真は劇団唐ゼミ☆から転載。070420_1

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