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2007.05.22

水戸芸術館の『行商人ネモ』

 米沢学会で一週空いてしまったので、19日、高速バスに乗って水戸へ。水戸は中高時代を過ごした町である。先週の米沢と比べると県庁所在地ではあるが、それでも昔の町はすっかりさびれている。ある意味では水戸芸術館自体が町の空洞化の象徴のようなものなのだが、表通りには虫食い状に空き地や廃ビルが並び、コンビニ、百円ショップ、マンションが目抜き通りなのに沢山立てられている。地方都市が経済によって食い荒らされてしまった典型である。

 変わりやすい天気で時折通り雨で肌寒い。紅テントの裏でいつものデッキチェアーに座っている唐さんに挨拶。前の日飲み過ぎたらしいが、身体は元気なようだ。四方山話をしながら唐ゼミ☆の椎野がずっと探しまわっていた「ジロリンタン」の「歌」について尋ねるとすぐに鼻歌で歌ってくれた。どうも「歌」ではなかったようだ。戦後すぐのNHKラジオドラマで「鐘の鳴る丘」「ジロリンタン物語」「三太物語」「さくらんぼ大将」「新諸国物語」(笛吹き童子、オテナの塔、紅孔雀など)と続くのだが、その「ジロリンタン物語」の主題歌の中に「何でも知ってるジロリンタン」という歌詞がある。ここから、当時の子供たちの間で「嘘だと思ったらジロリンタンに聞いてごらん」という「囃子ことば」が流行ったらしい。それにしても、そんなことを一瞬で思い出してすぐに澱みなく歌えるこの人の頭の中はどうなっているんだろう?

 雨を避けていると、ショップから出てきたのは去年までここの美術部門の学芸員だった逢坂恵理子さん。森美術館に変わったのだが、週4日勤務でこちらにまだマンションがあるのでしょっちゅう来ていると言う。逢坂さんと一緒に学芸員室に入り、森司さんや高橋美都さんにご挨拶。森さんからまた8月31日から三日間程バッタを出したいという話を伺った。

 芝居の方は、広げたテントにほぼ満員の入り。この場所は後ろに池と壁があるので、音が反響して、小さな音もよく聞こえる。役者も後ろから跳ね返る音のディレイで自分の声がよく聞こえるらしく、全体的にとてもいい演技だった。一幕では藤井由紀の動かす足踏みミシンのキーキーいう音がとても暖かく伝わってくると共に、先週の花園からなのかもしれないが、一幕の終わりで久保井研の持つランタンに光が灯るという大きな演出の違いがあった。また最後では本公演唯一の水のある借景。巨大な石のオブジェが吊るされた池の中で、足元の水をバケツで掬いながら、稲荷卓央、十貫寺梅軒、久保井研が子供の水遊びのようにお互いに水をかけあうという幸せなエンディングで、これまでの中で一番素晴らしい出来だった。水戸まで来て良かったし、「唐さん、これってもしかしたら名作じゃないですか?」と思わず口にしたら喜んでくれ、終わった後もずっと作品論をしていた。三回、四回見ないと伝わらない演劇があったっていいじゃないか、というような話である。

 たとえば、「ネモ」が唐十郎の分身であることは誰でもすぐに気づく。だが、ネモが75本の白いズボンと共に行商しているのは、唐さんの演じる舌巻が「銀シャリ」と呼ばれる白い上着を着ているのと照応しているなどということは、一度目ではほとんど気づかない。白いズボンに白い上着、そしてアイパッチと白い帽子と言えば、これは「カンテン堂シリーズ」の灰田そのものではないか。それが、技術を身につけた現在の唐組の劇団員たちに向けての当て書きでどんどん増殖しているのではないかというような話である。カンテン堂もまた複雑なイメージの増殖した物語の中で、ハルシオン、あるいは「脳内麻薬」で廃人になってしまったジャンキー探偵灰田が活躍する話だった。二年前の秋にやった「カーテン:電子城2より」もそんな話で、イメージのまるで熱帯雨林のような増殖に頭がウニのようになってしまい、もの凄いエネルギーを照射を受けたが、今回も、たとえば「豆腐を顔にぶつけて押し付ける」というようなイメージが、けっして「脳散らす、だから白い脳味噌に似た豆腐をぐちゃぐちゃにする」というような言葉による「意味」にはけっして回収されない。それでも頭の中にこびりついてくるほとんど物質化したイメージと「物質的恍惚」が次から次へと繰り出されてくる。

 次の日、水戸から戻ろうと歩いていたら、携帯に唐さんから電話が入り、興奮した声で、「昨日室井さんと話をして、いろいろ眠れないで考えていたんだけど、秋にカンテン堂シリーズで行くのもいいかなと思っちゃったんだけど、どうかな?」と言ってきた。「ああ、それは面白いんじゃないですか?」、「室井さんだったら何がいい?」、「さあ、いろいろ見ていない物があるので急に言われても分からないですけれど、<裏切りの町>なんか面白かったってみんな言っていますね」、「<裏切りの町>かあ‥‥、他には?」。どうもお気に召さなかったらしい。それに、いつものことで結局はまた全然違ったものになることも多いのであるが、まあ、しかしまたまた頭が活発に働き始めたようで、とりあえずは良かった。

 公演では高校の同級生の富岡君、栗原夫妻も一緒に来てくれて終わった後、プチ同窓会。次の日もランチを御馳走になって帰宅。まあ、一泊二日ではあるがいろいろ盛り沢山な小旅行だった。

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