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2008.11.18

「湯上がり組」と「行水組」

 15日は、大阪日本橋の近畿大学会館で行なわれた近畿大学・唐十郎演劇塾(卒業生含む)公演『少女仮面』を見に行く。唐組の久保井研と二人掛けでのんびりと新幹線。こういうのもなかなかオツなものだ。
 2005年に横浜国大を定年退官した後、唐さんは近畿大学の客員教授として学生の指導を行なうようになった。招聘してくれたのは同大学文芸学部芸術学科舞台芸術専攻にいる、演劇評論家の西堂行人さんと、演出家の松本修さん。お二人とも現在の演劇における立ち位置は唐さんから随分遠いようにも見えるが、元々唐十郎の状況劇場を体験したことによって演劇の道を志すようになった人たち。2003年頃から既に唐さんを招く準備を始めてくれており、2004年から唐さんは特別講義などで近畿大に行くようになった。ぼくも、唐さんを敬愛し、唐さんのために身体を張ってくれそうな彼らなら、と納得して、唐さんを近大に送り出すことになった。
 2004年には卒業公演として松本さんが演出する「唐版・風の又三郎」を、やはり近畿大学会館で上演。東京公演もした。唐ゼミの椎野や中野と見に行った。そこから何人かの卒業生たちが育ち、松本さんの舞台の常連になった者もいる。その後、学生の演出での「ジョン・シルバー」、唐さんと松本さんの共同演出による「少女都市からの呼び声」と続き、「風又」に出演した卒業生の小林徳久君たちが演出補佐を務め、もはや授業の一環ではなく完全に独立した「唐十郎演劇塾」に発展。一二年生や卒業生を交えての「演劇自由塾」という形になったのが前回の「動物園が消える日」。そして、今回の「湯上がり組」、「行水組」の二組に分かれた「少女仮面」とつながったのである。
 変な話かもしれないが、授業の枠を外れて、松本さんの直接の手を離れた前回くらいから、参加者たちが見違えるように生き生きと動き始めたような気がする。同じくらいの年の小林君や卒業生たちと、単位や授業とは関係なくパワーを発揮する現役の一・二年生たちの若さがうまく組合わさり、そして時々稽古に手を入れる唐さんの突飛なアイディアが彼らを勢いづける。
 そして今回の「少女仮面」、びっくりした。これまで、京大の劇団や文学座研修所の卒業公演で見た「少女仮面」を遥かに越えていた。両バージョンとも素晴らしく、これが学生演劇かとびっくりしてしまった。とりわけ、腹話術師を演じた小林君、春日野役の高橋さん、久保田さんとも素晴らしく、それ以外の役者たちも気合いに満ちてみんな素晴らしく、躍動感に満ちた演技である。「湯上がり組」の春日野はヒステリックで観客を飲み込むような狂気の演技において、「行水組」の春日野はクールな男役の佇まいから、少しアニメ声の「女」に変わるその転換の演技において際立っており、それが徹底した稽古量に支えられていることがわかる。少女「貝」も「水のみ男」も「ボーイ主任」も、いずれもまだ一二年生が中心であると聞いて驚く。うちでやった「愛の乞食」の時もそうだが、二十歳前後の世代の持つ潜在的な爆発力は凄い。というわけで、大満足の出来だった。唐ゼミ☆の立ち上げの時期の記憶が重なってくる。
 もちろん、それを支えているのは小林君の演出力、統率力、そして唐さんのやはり非凡としか言いようのない演出力だ。それは、とりわけ第三場での甘粕大尉の登場シーンに現われている。通常甘粕は春日野の妄想として舞台奥に幻想的に現われるのだが、花道を吹雪の中を行軍する部下たちを引き連れて登場し、そこは一瞬にして満州の野戦病院に変わってしまう。また、防空頭巾を被ったファンの少女の群れはマクベスの魔女よろしく三人の不気味な仮面を被った少女=老女として現われるなど、これまで思っていたこの作品の意味を根底から覆すような画期的な演出だった。掛け値なしに素晴らしい「少女仮面」だったのだ。
 終わった後、唐さん、松本さん、西堂さん、久保井君、唐ゼミ☆の中野、小林君、そして終わったばかりの若い「塾生」たちとの晴れやかな飲み会となる。唐さんが近大に行くようになって四年が過ぎ、ようやくそれがこの「少女仮面」で実を結んだような気がしてうれしくて仕方なかった。松本さんや小林君も思いは同じらしく1:00過ぎまで若い学生たちと一緒に盛り上がった。ぼくにも体験的に分かるのだが、彼らは本番二回でまるで昆虫の脱皮のように同じ人間とは思われないほど飛躍する。18歳、19歳の春日野は宝塚のベテラン女優になり、老女と少女を循環する。それもまた「少女仮面」のテーマにふさわしい出来事である。この作品はまた優れた演劇論、演技論でもあるのだ。
 さて、それはそれとして、困ってしまったこともある。去年、久保井君にお願いしている「舞台芸術論」の学生たちは近畿大学と同じ演目「動物園が消える日」を学内で上演した。問題は、今年はうちでは何をやるかだ。同じ「少女仮面」であれほど素晴らしかった「塾生」たちに勝てるだろうか? それとも何かもっと意想外の演目を選べるだろうか? いやいや、問題はうちの「授業」でしかないと思っている学生たちに、あの自由な「演劇塾」に太刀打ちできるだろうか。これから、みんなで頭を悩ませなくてはならない。何人かが深夜バスで大阪まで来てこれを見ているはずだ。逃亡するのか、それとも戦うのか、主役はやはり一二年生にすぎないうちの学生たちである。

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