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2009年10月

2009.10.24

劇団唐ゼミ☆「下谷万年町物語」開幕

 劇団唐ゼミ☆の「下谷万年町物語」は、いまから一年以上前から始まった企画だ。立ち上げから劇団を支えていた男性劇団員が離れて、テント公演どころか劇団継続も危ないと思われた時に、この1981年に初演され、あまりもの規模の大きさに誰も再演しようと思わなかった幻の作品の上演に向けて、まずは出演者を募るところから始まった。初演を見た人、初演に役者やスタッフとしてかかわった方々、新しいことを経験してみたい演劇人など、いろいろな人が集まった。去年の「ガラスの少尉」、今年の巨大バッタパフォーマンスなどの流れを経て、今回のこの合同プロデュース公演とでも呼ぶべき規模の大きな公演が実現したのである。いやあ、ここまで来るまで長かった。座長の中野敦之も、椎野裕美子、禿恵、安達俊信らの幹部俳優もこの日のために長い旅路を歩んで来たし、唐ゼミ☆の劇団員たちもよくここまで一緒についてこれたと思う。
 その初日が、23日、浅草の花屋敷遊園地の北東部にある駐車場に設置された、これまでの倍以上の広さと高さを持つ、巨大な新・青テントで幕を開けた。予想もしなかったいろいろな事態をもくぐりぬけて、こうしてこの舞台が幕を開けることができたのは感慨深い。
 場所の規制上、夜9:00頃までしか音を出すことができない。普通にやると3時間半以上はかかってしまうこの大作をそこに突っ込むためにはどうしても開演時間を早める以外にない。その結果、夕方6:00開演ということになってしまい、平日にはありえない早い開演時間になったこともあり、観客数はいまひとつであったが、それでも初日としては力の入ったいい舞台を見せてくれた。言うまでもなく、劇中ただ一人の女性である椎野裕美子の「お瓢」はこれまでになく力強く美しい、圧倒的な存在感を見せており、唐ゼミ☆の水野香苗が稽古の時とは見違えるような力のこもった熱演を見せ、水野の文ちゃんと入れ替わる大人の文ちゃんを演じる安達俊信もいい味を出している。杉山雄樹はいつもにもまして、誰にも真似できない不思議な存在感と、客の心に台詞のひとつひとつがぐさりと突き刺さる迫力を増している。今回客演の形で入っている洋一役の尾崎宇内は、まだ完全とまでは言えないが、一日一日、著しい成長を見せており、いい初日を迎えることができた。何しろ、100人まではいなくても5-60人もの出演者が登場する芝居なので、一言で言い表すことはできないが、おかまの一人一人や一瞬しか出て来ない役のものも含めて、ぴんと張りつめた緊張感がずっと保たれていくような素晴らしいアンサンブルである。
 この芝居、これから週末や祝日を中心に3週間にわたり全12回行われるのだが、こうして初日を迎えて走り出してしまったらもう千秋楽まではほとんど一直線で走り続けることだろう。
 
 通常の演劇ではあり得ない、出演者数と物量を集め、作品の舞台となった浅草で、しかもラストにはもう消えてしまった万年町の幻が観客の前に本当に出現するこのめったに出会えない奇跡的な舞台に、是非足をお運び下さい。但し、テント内部はありえないほど寒いので、過剰だと思われるくらいの防寒対策をお勧めします。5:30から開場しますが、早めに来て頂いた方にはチケットで花屋敷遊園地に無料入場ができるなどの楽しみもあります。昼過ぎからの浅草観光を交えて、是非どうぞ。

 もう、こんな大掛かりな「出来事」それ自身とも言える演劇には二度と出会えませんよ!Shitaya_a3omote_karazemi

2009.10.04

国際記号学会@A Corunaとか、北仲スクール開校とか、いろいろ

 というわけで、もう10月になってしまった。

 9月中はずっと、北仲スクールの準備を進めながら、開国博のバッタの公開も再開。さすがに後半になって観客数も増え、小学生限定のバッタ体内探検ツアーを始めたところ予想以上に盛り上がり、忙しかった。

 その間、横浜市が主催する国際会議の期間中の5日にBankArt-NYKで開かれた「集まれ!アートイニシアティブ」に参加。東京芸大、筑波、広島市立大、神奈川大、首都大学東京、倉敷芸科大などの参加者たちからいろいろと教えて頂けて有益だった。15日には七大学の学長と市の代表者を揃えての調印式+記者会見。

 21日から28日まで、スペインのア・コルーニャで開かれている第十回国際記号学会に参加。スクール準備とか、開国博のグランド・フィナーレとか、いろいろ慌ただしい時期に申し訳なかったが、スペインの西海岸、フランスとポルトガルの間に位置するガリシア自治州の中心的な都市、ア・コルーニャに。前もって調べていた気象情報では20度以下と肌寒いのかと思いきや、南部のアンダルシアやカスティーリャ程ではないものの、スペインの強烈な太陽に恵まれて日中には汗ばむほどの連日の好天だった。

 初日には、オープニングセレモニーの後、作家サルマン・ラシュディの講演、インターネットTV電話でのウンベルト・エーコの挨拶などがあり、ランチを挟んですぐに全体セッションとラウンドテーブル。ぼくは、この両方に顔を出さなくてはならなかったのだが、会場となっている大学のカフェテリアでのランチ・サービスの手際がきわめて悪く、全体の進行が1時間遅れになってしまった。それでも、夜予定されている市庁舎でのレセプションには間に合わせなくてはならないので、全体会議で10分しゃべった後、そのままラウンドテーブルの会場に抜け出して司会をするという忙しい展開だった。ラウンドテーブルでは、吉岡洋、小池隆太、小野原教子、大久保美紀の四人の日本からの参加者及び、リトアニア在住の高馬京子さんも参加して「ジャパン・クールの記号論」と題して、オタク文化、ゴスロリ、キャラ弁、「可愛い」文化などというテーマで、かなり「コア」な日本文化論が繰り出された。聴衆は期待していた若い世代というよりも中高年のまじめな聞き手が多かったのだが、熱心に耳を傾けてくれた。ただ、日本人ですら知らないことの多い、オタク文化のかなり深い話題について、日本語の分からない聴衆に向けて語っていると何かとても変な気持ちになる。国際学会に出るたびに感じることだが、誰が誰に向けてどのような場所で語るのかという「言説の磁場」のようなものにどうしても意識的にならざるをえない場なのだ。

 エストニアのタルトゥ学派の頭領Kalevi Kulや、トロントのご隠居Paul Bouissac、中国の大ボスLee Youzheng、韓国や台湾のグループ、久しぶりに復帰したウィーンのJeff Bernard、現会長のTarastiや事務局長のPaz Gago、前会長のR.Posnerなど、この学会の度に顔を合わせるなつかしい面々との再会や、パリのFrancois Jost、ブリュッセルのAndre Helboなど今大会で勢力拡大しているフランス系の「ヴィジュアル記号学会」の人々(このグループはsemiologieではなくてsemioticsを名乗っている)などとも交流する。

 市庁舎でのレセプションの後、すぐに帰ってしまうパリの大久保さん、リトアニアの高馬さんを交えたフルメンバーで会食。この地域は海産物の料理が有名。と言うよりも、海産物とハムの店しかないと言ってもいい。オリーブ油で揚げたタコやイカ、小さなトウガラシを揚げて塩を振って食べるおつまみなど、すべてがとても美味しい。特に甘くて柔らかいタコは絶品で滞在中何度も食べた。

 会期中24日には会場を抜け出して、電車で40分ほどのサンチャゴ・デ・コンポステーラに小旅行。中世以来のカトリックの聖地だが、観光化されていてちょっと拍子抜け。何だか善光寺とか浅草寺とかに行った気分だ。ここでも何人か記号学会の参加者と会う。

 理事会ではさんざんもめた末に、結局は副会長を何人か入れ替えて、タラスティとパズ・ガーゴの現体制がもう一期続くことになった。次回は二年後に南京が予定されている。

 さすがにハードスケジュールで体調はいまいちだったし、最終日にはちょっと風邪気味だったのだが、連日夜は中心部付近で食事とワイン。楽しかったが、帰りの飛行機は相当にこたえた。

 帰国後、唐ゼミ☆の中野が川崎まで迎えに来てくれ、いろいろと報告を受ける。10月1日には、いよいよ北仲スクールの開校。家主の森ビルさんと契約関連の打ち合わせ、家具類・什器類、ネットや電話の敷設、会議や打ち合わせなどが続き、来週も続く。その間、3日には唐組の秋公演「盲導犬」が開幕。初日には、石橋蓮司・緑魔子、新宿梁山泊、劇団唐ゼミ☆をはじめ多数の招待者が訪れ、賑やかに宴会。蜷川演出、連司・魔子さんの主演で1973年に初演されたこの作品は、その後新宿梁山泊、唐ゼミも手がけてきた因縁の深い作品だが、舞台上からは一歩退いた唐さんの、即物的でリアルで乾いたきわめて知的な演出で、全く新鮮な演目に生まれ変わっていた。とりわけ、これまでの上演とは全く異なる意想外のラストには胸を打たれた。秋公演は、唐十郎による唐十郎作品への批評的再接近といったメタシアター的な要素が含まれると前にも書いたが、今回の演出には、70歳を目前にしてまだまだしたたかで、剃刀のように研ぎすまされた鋭敏な感覚をうかがうことができる。

 今日は、北仲にも参加してくれる望月六郎さんを迎えて、劇団唐ゼミ☆による「下谷万年町物語」の一・二幕の通し稽古。明日は、唐組久保井研による舞台芸術論のガイダンス。ちょっとばかし体調不安だが、まあ楽しいことばかりなので何とか乗り切れるだろう。
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