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2012.07.10

国立新美術館『具体』展とパリのももクロ

 浅草での三週間にわたる劇団唐ゼミ☆公演「木馬の鼻」も無事に終了した。千秋楽には遠く大阪、京都屋、長野、茨城などからも駆けつけてくれた観客でテントは一杯になった。唐さんのご家族や唐組、Dogadoga+の役者陣や横国の現役、卒業生たちでテントの中は賑やかだった。金、土と雨に祟られたのだが、最終日は好天でいろいろ課題は残しつつも未来へとつながる良い千秋楽だったように思える。この日はわざわざ京都から駆けつけてくれた親しい人たちと1時過ぎまで一緒に楽しく飲んで浅草に泊まり、そのまま大学に行った。

 さて、その間に乃木坂の国立新美術館で開催されている「『具体』--ニッポンの前衛18年の軌跡」を見に行った。火曜日に開かれたレセプションには大垣のIAMASに行っていたので参加することはできなかったが、久しぶりに開かれる「具体」展だと言うことで密かに楽しみにしていたのだが、期待を大きく裏切られた。つまらない展覧会だったのである。

 それにはいくつか理由がある。まず「18年間の軌跡」をできるだけ均等に見せようとしたのか、50年代から60年代初めの熱気溢れる時代と60年代後半から万博までの末期を区別せずに、グループに属していた作家たちの手頃なサイズの作品をそれぞれ4,5点ずつ時代順に順番に並べていること。野外展や舞台でのパフォーマンスの資料映像を流しているだけで、「具体」の持っていた熱くて規格外のパワーを全く感じられない展示スタイルだったこと。何よりも兵庫県立美術館や芦屋美術館のコレクションが中心で、白髪一雄や元永定正の規格外の作品もなく、ましてや嶋本昭三の巨大なスケールでの多面的な活動も紹介されないという、ダイナミズムに欠け、何の驚きもない不完全燃焼の展覧会だったのである。具体の活動を吉原治良という先生の功績にするのはいいが、吉原の戦前からの活動を紹介するだけで、具体だけが持っていた草創期の若いパワーの炸裂に全く迫っていくことのできない、まるでカビのはえた標本箱を並べたような展覧会だったと言っていい。ミシェル・タピエによって世界に喧伝された具体に惹かれて集まってきたひと世代若い後期メンバーたちの作品が、なるほどこれだけまとまって展示されることは少なかったかもしれないが、彼らの中で現在も活躍している人たちの作品も72年の具体解散時までのものに限定されており、具体の持っていた爆発力や可能性を平面や適度な大きさのオブジェの領域に押し込めるだけの展覧会だったように思われる。確かバブル時代の90年代の展覧会では観客に自由に解放されていた嶋本昭三の「この上を歩いて下さい」も「触らないで下さい」という注意書きと共にだらしない木製のオブジェとして横たえられていた。折角夫人や娘によって再制作された故・元永定正の「水」をビニール袋に入れた作品も、国立新美術館のガラスの壁にまるで捨てられたクリスマスツリーのイリュミネーションのように吊るされていた。白髪一雄にしても巨大で迫力のある作品がひとつも展示されていない。展覧会というものが持っている力を全く信じていない人たちによって作られた、図録やカタログを越えだすことのないとても脱力させられる展覧会だったと言っていい。これからこの展覧会はニューヨークにも巡回するらしいが、「具体」という活動を知る者にとってはとても残念なことだ。もう少しなんとかならなかったものだろうか? 関西にならもう少しものの分かる人たちもいただろうに…。

 その間、パリのジャパン・エクスポ(7月5~7日)に遠征していたももクロのライブ映像を見ていた。彼女たちとそのブレインはついにプロレス流の「海外遠征」路線に本格的に足を踏み入れたようである。ドイツのメディア芸術祭イベント、マレーシアの野外ライブに続いて、ゲリラ的にスタッフの持つiPadから生中継されるUstream映像がライブ前とライブ後に流され、三つのライブをパッケージングした「ニコ生」動画との両方を交互に見ていると、リアルタイムで彼女たちが未知の世界に足を踏み入れていく様子が生々しく伝えられてきて、つい力が入ってしまう。コンヴェンションのメインステージとライブハウスで30分程度の短いライブを2回行ったが、一度目は少し不安定だったが、二度目のライブハウスでは見違える程、乗りがよく切れの良いパフォーマンスを行った(ように見えた。パリでは大久保美紀さんが両方ともステージ近くで見ていたようだが、うらやましいなあ)。「ニコ生」には10万人近くの視聴者がいてすぐにはじかれてしまうので、思わず「ブレミアム会員」登録をしてしまった。うまい商売である。しかも、会員登録すると即座にそれが視聴環境に反映するようになっている。ニコ生、恐るべし。ペイパーヴュー視聴ビジネスを完全に塗り替えていくのだろうな。

 浅草で飲んでいる時にも、ももクロ贔屓をみんなに馬鹿にされた。彼らが好きだったという工藤静香や韓流アイドルを例に挙げられてそういうものに一切はまったことがない「アイドル童貞」とからかわれたのだが、何か違うような気がする。批評の問題だと言い返したかったが、まだ確信が持てていない。もちろん、古くは南沙織や山口百恵、ピンクレディやキャンディーズ、松田聖子や中森明菜に興味を持ったことはあるが、別にライブを見に行きたいとか思ったことはない(違うな。もっと沢山興味を持っていたタレントはいた。仁科明子とか、アグネス・チャンとか、薬師丸ひろ子とかその他大勢。それにもっとミュージシャンぽいJ-Pop系タレントなら、ライブも見に行った。何か、それぞれが時代の空気を反映していたような気がして文章にしたこともあるような気がする。だけど、いずれも一瞬だけでそれほど拘泥したことはない。今回のはそれとは全然違う初めての経験のような気がするのである)。前に書いたように、いわば「アートプロジェクトとしてのももクロ」というものに惹かれているような気がするし、期間限定の少女期の身体を用いて黒子としてのスタッフチームが仕掛けていてるアイドルユニットタイプのプロジェクト・アートとでも言ってもいいだろうか。それは、10年以上唐ゼミという大学発のプロジェクトに自分が関わってきたせいかもしれないし(もちろん、ももクロと違って彼らは勝手に成長して行くし、路線ももはや彼ら自身が決めているところがだいぶ違うが)、バックステージやスタッフの動きまでが映像で逐一伝えられるようなメディア戦略にも関係あるのかもしれない(実際、彼女たちのDVDでも、裏の楽屋ネタ的なメイキング映像が不可欠なものとなっているし、地のままでふざけている映像の方が、彼女たち自身のblogや雑誌のインタヴューなどよりもずっと生き生きとして、思わず中学生時代に引き戻されてしまう。多分この部分が彼女たちの一番の才能だ。普通のアイドルやタレントのバックステージを延々と見せられてもきっとすぐ飽きてしまい、かえって興ざめてしまうに違いない)。また、前のエントリーでも書いたように震災後ということや、現在の混迷している政治状況とも結びついているのかもしれない。というわけで、もう一つ自分でも決定的な理由はよく分からないのだが、とにかく関心は今でも弱くなることはなく、むしろ強まってきている。

 パリでのももクロライブについて言えば、「怪盗少女」や「Z伝説」といった日本のライブでは欠かせない彼女たちのキャラクター物の持ち歌を敢えて封印して、ライブの最後を「労働讃歌」と「ニッポン万歳」で締めたというところに、演出家の知性を強く感じた。"JapanExpo"はフランス人のオタクたちによる「Cool Japan」のイベントだが、この時期にパリのHotel de Villeでは「ニッポンの復興」展と題してフクシマ以降の日本の展覧会が開かれていたと聞く。そうした状況に鋭く対応しているのだ。けっして日本でのライブと同じことをやろうとはしていない。

 さらに、これで彼女たちはいまや世界中のどこに行っても10万人を越える視聴者が確保されることが分かったのだから、おそらく秋にも世界のどこかでこうした「海外遠征試合」が行われるのではないだろうか? あとは、8月5日の西武球場で発表されるであろうクリスマス・イベント(球場、もしくは武道館規模の会場での全国生放送?)、そして大晦日の紅白歌合戦というスケジュールになるのだろうが、その前にもう一度大会場でのプロレスか格闘技イベントへの登場も期待したいところだ。あるいは既に9月末には長崎県の稲佐山公園野外ステージというところでのライブが告知されているが、1万5千人以上入るという野外会場に全国から観客を集めて「ウッドストック」の再現を狙っているのかもしれない。新曲の「Z女戦争」で「少女戦士」というコンセプトを強く打ち出しているのは、アウェイの地にどこでも攻め込んで行く少女戦隊という、これまで見たことのないアイドル・プロジェクトを目指しているからであり、それを異物として社会に介入し、揺り動かしていくプロジェクト型アートとして見ることもできるではないかと思っている。いや、むしろアーティストとコラボして欲しいなあ。椿昇とかヤノベ・ケンジとかどうだろうか? 巨大バルーンのオブジェかジャイアント・ロボットとコラボしている彼女たちを見てみたい。あるいは、今の体調では無理だろうけど、ビン投げパフォーマンスをしている嶋本昭三とかどうだろう?
 

 

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